中國學工具書提要
中国学研究のための基本文献案内
 
はじめに
 

前 言

この提要は、元来大学学部生のための小冊子として編んだものである。私たちの専攻する中国学は、文・史・哲いずれもレファレンスに大変手間のかかる学問である。故に、とりどりの解題辞典や工具書案内が日中から上梓されている。しかし、この手の案内書に決定版といわれるものが出来ることはない。書物は陸続と生み出される。標点本や索引の情報など一年も経てば増補改訂を余儀なくされる事項であろう。

私のささやかなパンフレットは、昨年(平成十年)「増補修訂版」を油印して以来停滞していた。そこに今回、秋山君から勧誘があったのである。私の冊子は書籍の解題が目的ではないので、「提要」の語を使うことは忸怩たるものがあり、紀ホに対して恐竦甚大ではあるが、標点本・索引などの情報に関しては、この小品が常に最新版なのであり、既製の精装本に勝るところでもある。これには聊か自負することも許されよう。

もっとも、標点本の氾濫は着実に私たち若輩の漢文読解力を落としているし(点をきることが漢文読解の根本であろうから、それが済まされていて、更に標号まで添えてあったら読めない方が稀)、索引の濫用は時間の短縮と同時に、私たちが書物そのものに触れる大切な時間(これこそ現代人が古人と共感できる唯一の時ではなかろうか)を確実に奪っている。ゆめゆめ学問と便利とは相性の悪いことを忘れてはならないだろう。

思えば、これらの書を簡便に使えなかった古人の苦労はいかばかりであったろう。にもかかわらず偉大な成果をあげられたのであった。今人の何と惠まれていることか。冀わくは、諸書をほしいままにして、支那学研究の成就されんことを。自誡を込めて。

        才性過人者、不足畏。唯讀書尋思惟究者、爲可畏耳。(朱熹)

平成己卯季秋  於洛西北野菅社東    

云南艸人    澁  澤  尚 

 
 
制作・著作:澁澤 尚 / 秋山 陽一郎
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